「チョコとミントと私のお気に入り」、最後までお読みいただいてありがとうございました。
拍手小話として書いたものを、携帯からの方も読めるように、こちらにも載せることにしました。
もうこの時点で「拍手」小話ではなくなっているのですけど…^^;
草壁君と智世子が上手くいった後、それでも残った疑問部分がここで解決できればいいなと思います。
ネタばれ含みますので、本編を最後までお読みいただいた後、「続きを読む」から、お楽しみいただければと思います。
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やっぱり、いた。
ここに来れば、いると思った。青い照明が揺らめくバー『グラン・ブルー』。
私は、カウンターに座っている白いロングTシャツの男の背後につかつかと歩み寄った。
「絵梨花ちゃんに、なにをしたんですか?」
息まいて詰問口調の私に、男は驚く様子も見せず、ゆっくりと振り返る。
「何をしたかなんて、そんな野暮なこと聞く?」
「く、詳しく聞くつもりはありませんけど」
って、何で私が赤面しなきゃいけないんだか。
それを見て、やっぱり大上さんは、ビール片手にあの厭味たっぷりのにやけた笑顔を見せた。
私に隣の席を顎で示して、座る様に促す。
「――君が勘ぐっているようなことはやってない」
「わ、私が思うようなことって――」
大上さんの視線が、座って同じ目線になった私の目を捕らえた。ただ、視線があっただけなのに、私の心臓が大きく一度どきんと鳴った。
たぶん、この人は、色っぽいんだと思う――仕草とか、言葉とか。そして、私はそういうのに慣れていないだけなのだ。
そう考えている先から、彼は、まっすぐ私を見たまま「セックス」と言った。
――どうして、この人は、開けっぴろげにこんなことを言うかな。
そして、それを聞いた私の反応を見て楽しむなんて、悪趣味極まりない。
私がどんな顔をしていいのか微妙な表情を見せたことで満足したのか、彼は喉の奥でくっと嗤った。
「やーらしいなぁ、チヨコは。……洋服買ってやって、おいしい食事に連れていってやって、ちょっと、おだててやっただけだ。――で、どう、ちゃんと仕事してる?」
仕事に対する熱意は、とても見られる。何度言っても数式が覚えられなかったり、誤字も多かったりするし、あまりにも先走り過ぎて、時々セーブをし忘れることもあるけど、それでも、仕事をしようという気持ちが伝わってくるのは、進歩だ。
でも、あんなにあからさまに仕事をしなかった彼女がここまで変わったっていうのに――
「それだけ?」
「それだけじゃ、不足? ――悪いが、俺は成人してないガキに手を出す趣味はない」
「だって、あのとき、絵梨花ちゃんの方が扱いやすいって――」
「扱いやすいだろ。服と食事と上手い言葉だけであれだけ舞いあがれるんだから」
「……悪かったわね、扱いにくい女で」
「嫉妬か? クサカベ君が焦れるぜ」
口の端を上げたまま彼は、煙草を咥える。
「違いますっ!」
私は思わず声を荒立てた。それで一瞬、周囲の視線を集めてしまったけれど、隣に座っていた大上さんは、まるで私の存在など無視して、キンッ――と軽い金属音を立ててライターに火を付ける。
それからゆっくりと炎に煙草の先を近づけ、火をつけておいしそうに煙を喫んだ。
「――心配しなくても、彼女のことも、ちゃんとうまく捌くよ。契約だからな」
「うまく――? それに、契約ってなに?」
大上さんは意味ありげに嗤って立ち上がると、すっと手を挙げてバーテンに合図を送ると、黒のダウンジャケットを片手に私に背をむけた。
「クサカベ君と、おシアワセに」
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